井口僕は大抵のマンガや小説を読んでも、自分の日常や人格との違和感を覚えて寂しくなるのですが、「惡の華」ほど酸素のように体に染み渡って理解出来て感動した作品は初めてだったんです。僕は普段マゾをやっているので、春日の行動の一つ一つが心底よくわかりますし、女の子のキャラクターが全員魅力的でツボに入りまくったんです。押見先生は、M心がわかる方だな、女の子のことを本当に好きでいらっしゃる方だなと思い、講談社の担当者の方にお願いしてご紹介いただきました。
押見6~7年前ですね。
井口「『惡の華』という星があったらそこに住みたい!」と思うくらい自分にフィットした作品を、映画をやっている自分が映画化しないでどうするんだと思って、「いつか『惡の華』を映画化したいです!」とお伝えして、企画書も出しました。なかなか実現しなかったのですが、角川の涌田さんが動かしてくれたことで実現に至りました。
押見僕が初めて井口監督の作品を拝見したのは19歳のときでした。VHSで『クルシメさん』を拝見して、自分が抱えている苦しさやつらさが表現されている作品があることに驚きましたし、すごく救われたんです。僕はその頃、漫画家になりたくて、でも描けなくて、悶々としていたんですけど、自分の内面をどうやったら物語にできるのかを、監督の作品に教えてもらった気がしました。
井口光栄です…!
押見僕が漫画家になれたのは井口監督のおかげだと、勝手に恩を感じています。だから、「惡の華」を読んでくださった上、映画にしたいとおっしゃってくださったことが本当に嬉しくて。僕もそうなったらいいなと思っていた夢が、時間はかかりましたが、やっと叶いました。
井口諦めないで見守って頂いて有り難かったです。当時はまだ連載途中だったので、どんなラストを迎えるのかを教えていただいて。
押見春日と常磐が2人で人生を始めていく、結婚のようなものに向けて描いています、とお伝えしました。
井口それを聞いて、高校生編の最後までやらないと先生が想い描いた「惡の華」にならないと実感しました。11巻ある原作を2時間の上映時間に収めるために悩んだのですが、高校生編で始まって中学生編を回想するという構成をご提案しました。先生とは入念にディスカッションをさせていただきましたよね。
押見いろいろ口を出してすみません。基本的な構成は素晴らしいと思いましたが、ディテールについていくつかご意見を言わせていただきました。
秘密基地が燃えたあと、仲村さんが佐伯さんを抱きしめるシーンをぜひ入れてくださいともお願いしました。映画で見たかったので。
井口僕は基本的に先生の原作と岡田さんが書いた脚本に従ったんですけど、いくつかオリジナルの要素を入れました。ひとつは、佐伯さんがブルマでハードルを跳ぶシーン。
押見あそこ、良かったです。あれがあるとないとでは大違いです。
井口この映画が海外の映画祭で上映されたときに、まずは外国人にブルマの良さを伝えないことには、春日がブルマを盗む心理がわからないから、映画に入っていけないんじゃないかと思ったんです。
押見あの当時の自分を叱ってやりたい気分です。盗む前に佐伯さんのブルマ姿をもっとちゃんと描いておくべきだったと気付かされました。ありがとうございます。
押見仲村さんは、最初から最後まで全部完璧でした。仲村さんに言ってほしいセリフも全部言ってもらってます。
井口本当ですか?特にベストな仲村さんは!?
押見最高すぎて選ぶのが難しい…。夜の教室では泣きましたし。
井口え!泣きました!?
押見はい。「契約終わり」と言ってからの立ち去り方も最高でしたし、「つまんないつまんない」というセリフも「そうか仲村さんはこう言うんだな」と。あと、仲村さんの目の剥き方も素晴らしかったです。
井口本読みで仲村役の玉城さんに、「こちらからは演出しないので、まずは最初から最後まで思うようにやってみてください」と言ったら、すでにああいう目や言い方をしてくれていたんです。
押見何気なく振り向くところの目つきもやばかったですね。秘密基地で春日がベシベシ殴られるところや頭突きされるところは羨ましかったです。
井口やったー! 先生に羨ましがって頂けたら何より嬉しいです!あの頭突きは映画オリジナルなんです。2人を密着させたかったんですけど、仲村さんは単に寄り添ったりはしないだろうな、どんなときでも相手に痛みを与えるだろうなと思って、頭突きにしました。僕が仲村さんにやられたいことベスト3を考えたうちの1つです。
押見いやー、僕も仲村さんに頭突きされたいです。
井口健太郎さんには、中学生の心を忘れないように、ホテルに帰っても中学生っぽいことばかり考えていてくれと言いました。あと、身長が170cm台なんですけど、なるべく猫背にして、150cm台に見える芝居をしてください、「好きな食べ物はハンバーグ!」みたいな人の芝居をしてくださいと言いました。
押見体操着を着せられるところも良かったです。一回殴られて「うーん」となるリアクションに、スッと共感できました(笑)。
春日が白いブリーフを履いていて「やった!」と思いました。
井口自分が観客としてこの映画を見たとして、春日がトランクスを履いていたら「『惡の華』をまったくわかってない!」とドン引きすると思ったんです。
押見春日がブルマを手にとって、まず股間を触って、そこを嗅ぐところもよかったです。家に持ち帰った体操着を、ベッドの上すぐに並べるところも見事でした。
井口健太郎さんには「この機会しかないから、すべて分子まで吸い取るくらいの嗅ぎ方をしてくれ」と言いました。ブルマの色に関しては、スタッフと1時間くらい議論になりました。時代と地域によって、紺、えんじ、水色と、色の記憶が違うんです。みんな一歩も譲らなくて。
押見僕は小中とも紺でした。紺以外はありえない。
井口紺にしてよかったー!
井口僕にとって学校生活は苦痛なことがすごく多かったんです。特に思春期って、一般や平均の概念から外れている人って、すぐに「おかしい」「変」と言われて、差別の対象になりやすいじゃないですか。性的なことに限らず、“変態”やマイノリティの悲しみや孤独を映画『惡の華』で表現したいと思ったので、学校がつらい人や、生きていて居心地の悪さを感じる人たちに見てもらいたいです。一種のハッピーエンドの形はとっていますが、若い人たちに向けて、これから先も続く人生へのエールを込めたつもりです。
押見まさに、僕もその思いをマンガに詰め込んだつもりだったので、その思いを汲んでいただいたと感じました。マンガの最後の方で、大学生になった春日が走馬灯のようにこれからの人生を見るところに出てくる、過去でも現在でもない仲村さんが都会を歩いているカットの意味を聞かれたのは印象的でした。
井口ラストシーンを考えるときに、先生があの仲村さんを現実と妄想のどちらで解釈しているのかが大切かなと思ったので。
押見人生の可能性の表現といいますか、これから先に無数の道があるうちの1つの仲村さんです、とお答えしました。
井口「思春期は終わりを迎えるけれど、その後を断定したくない」と。僕も、お客さんに考えてもらう余白のある結末にしたいと思って、「誰の心のなかにも惡の華はいるんじゃないか」というニュアンスのラストになりました。
押見原作者として、こんなにも嬉しい映画化はないです。全部がマンガのままなので、原作を好きという方も感動してくれるんじゃないかなと思います。できることなら自分が中高生の頃に、この映画を見たかった。見ていたらマンガを描かずに済んでいたと思います。
井口感慨深いです…!
どんなものを見たか、どんなものを読んだかでその先の道が決まっていくと思います。
その道はたくさんあって、何かに反発したり春日のような人がいたり。
春日を理解するのは難しいかもしれません。ただ、誰もがどこかに共感は出来ると思うんです。
『惡の華』を観た大人の方にはこういう思春期があったなと思い出して欲しいですし、
まだ思春期を迎えていない人達にもこの映画がどう映るのかが非常に楽しみです。
色褪せてほしくないし色褪せるべきでもないと思います。
その時に得た感情をマイナスに捉えるだけではなく、その時期の感情を否定せずにいてほしい。
『惡の華』を観て、この作品に光る共通のものを皆さんが見つけてくれたらいいなと思います。
人それぞれの思春期だったり環境だったりでこの作品は見方が変わるなって思っています。
誰しもが本来持っている、内に秘めている部分と普段は見せない部分を思い出させてくれる作品だと思います。
この映画を観た人が、それぞれの惡の華を語り合ってくれたらいいなと思っています。
仲村さんの事は全然わからない!笑
この映画は迫力のあるシーンがたくさんあって、私自身も挑戦的なシーンが多かったので大変でした。
自分の中学生時代と比較して見てもらえると面白いかなって思います!あ、あと監督がふわふわしていて癒されました!
「これは絶対に映画にしたい。そのために映画監督になったのではないか」と
全身に電流を浴びたような衝撃と直感に満ち溢れました。
長い片思いのような気持ちを抱え続け、遂に実現できる事になりました。
毒のある過激さだけではない普遍性と、孤独を感じる少年少女への共感が、
「惡の華」に人々を惹きつける理由だと思います。
今を生きる観客が求める題材とリンクしてきた「惡の華」こそ、今映画にするべき作品だと思っています。
偶然は素敵なものです。作品と、監督、役者、この曲の全ての爆発が交わるシーンは、とても素敵なものでした。
高校生から4年ほど経ちましたが、爆発は、形を変えて、音にすると、かなしみといらだちを行ったり来たりするだけになりました。
なぜ、そこで爆発できないのかというと、もうだれも守ってくれないからです。次は自分が誰かを守るようになるのです。そういうことを思って書きました。
僕の魂を救ってくれて、物語の作り方の手本にしてきたのが井口監督の作品だったからです。「惡の華」を描く上でも多大な影響を受けました。
ですので、1番楽しみにしていた観客が僕だと思います!
さらに、岡田麿里さんの脚本が絡み合うことで想像以上のものに仕上げて頂きました。
本当の、切実な、胸に突き刺さる「変態」を観ていただけると思います。